2014年夏に、クライアントと共に、米国で成立している特許の権利行使の問題で米国特許事務所を訪問したことがある。その特許は、いわゆるビジネス方法発明に関する特許で、日本と米国で特許が成立していた。ビジネス方法発明に対するグローバルな適格性 は非常に重要である。
その顧客は、米国におけるライセンスビジネスを行いたいという希望があったことから、実際に米国特許事務所を訪問して権利行使に向けて米国特許弁護士と共に検討することが訪問の目的であった。ライセンスビジネスといっても、要は、特許を侵害している可能性のある会社を探して特許権に基づく警告をして、ライセンス交渉を行う、ことを目的としていた
訪問前に特許番号と趣旨を連絡し、事前検討を依頼しておいたが、担当の米国特許弁護士は、開口一番、「この特許による権利行使は行わない方が良い」という発言があり驚いた。理由を質すと、「Alice判決というビジネス方法発明に対して非常に厳しい判決が最高裁で出たばかりである。今、この特許の権利行使を行うと、特許そのものが無効になってしまう可能性が高く、特許権者に不利になる。」とのことであった。
わざわざ日本から顧客と共にワシントンを訪問したにもかかわらず、見事に門前払いを食らい頭を抱えた。Alice判決は2014年6月に出たばかりであり、その直後にこの事件のために米国を訪問したことになる。
その後、随所でAlice判決に関する情報を目にし「時代は変わった」と感慨深かった。その後、忘れていたが、現在、米国に出願している案件で、実際にその影響を体験することとなった。即ち、日本特許庁に出願している特許出願に対応する米国出願への拒絶理由に、102条(新規性)、103条(非容易性)と共に101条(特許適格性・発明成立性)があり、Alice判決を思い出した。
米国特許法では101条に「方法、機械、製造物もしくは組成物に特許適格性を認める」と規定されていることから、特許法上は発明適格性がなく、ビジネス方法発明やソフトウェアに関する発明は、判例により特許適格性を容認されていた。
一方、日本特許法では、法改正により、発明適格性を規定する特許法第2条3項に「プログラム等も発明とする」旨明記されていることから、本件特許出願は日本特許庁では発明の成立性に問題にはならず、新規性、進歩性の審査がされ、引用文献との対比の議論に入っている。
米国出願に関する発明成立性(特許適格性)に関する拒絶に関しては、補正により装置発明に変更することにより拒絶応答中である。当該案件に関し、この拒絶通知が発送されたことから、現在もなお、米国特許庁実務はAlice判決の影響下にあることがよく分かった。
かつては、ステートストリートバンク事件判決により1998年に初めてビジネス方法発明が米国で容認され、その後、日本でも徐々にビジネス方法発明が特許の対象として容認されるようになった。現在は日本特許庁では「コンピュータソフトウェア関連発明に関する審査基準」が制定され、「ソフトウェアをハードウェア資源を介して実現する」ようにクレームが表現されていることが発明成立性をクリアする条件である。
一方、かつて米国では非常に広くビジネス方法発明特許が認められ、「ブランコの揺らし方」という発明に特許が認められたという記憶がある。この特許が成立したころに、私はWIPOのSPLT(実体特許法条約)へ日本弁理士会の代表として出席していたが、SPLTにおける「特許の対象」という規定に関する議論の中で、米国代表の「ソフトウェア、ビジネス関連発明にも広く特許適格性を認める規定とすべきである」という主張に対して、ある途上国の代表が「米国では本来の発明ではないlauphable Patentが成立している」という皮肉を言っていた記憶がある。確かに、当時米国では、「ブランコの揺らし方」という発明が特許されたケースを記憶しており、Alice判決はその揺れ戻しとも思われ隔世の感がある、
現在では日本特許庁の方が米国特許庁よりもビジネス方法発明に関する発明該当性を広く許容するようになってしまったが、いずれ米国もまた振り子のように、広く成立性を認める時代が来ることが予想される。事実、Alice判決の流れを修正する判決の出現により101条を理由とする特許無効率は低下している旨の情報がある。
なお、日本では一般的に、特許成立率は約7割であるが、ビジネス方法発明に関しては約8割の成立率であり、日本ではビジネス方法関連発明、ソフトウェア関連発明に関し、プロパテントの状況が続いている。