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分割出願戦略

日本には米国、韓国におけるような最終拒絶に対するRCE制度はない。また、米国における継続出願制度もない。従って、拒絶通知を受けた際には、意見書(及び補正書)を提出して、反論する必要がある

分割出願戦略

日本には米国、韓国におけるような最終拒絶に対するRCE制度はない。また、米国における継続出願制度もない。従って、拒絶通知を受けた際には、意見書(及び補正書)を提出して、反論する必要がある。また、最終拒絶(拒絶査定)された場合には審判を請求する外はない。従って、米国制度と対比した場合、出願人側の拒絶対応の選択肢が狭く、出願人保護に欠けるように見えるかもしれないが、審判段階に至った場合、日本の場合には審判での特許化率は他国に比して高く、また、基本的に審理は非常にフレキシブルである。

審判請求時及び、場合によっては審判係属中でも審判で拒絶通知があればクレーム等に関する補正が可能であると共に、審判では一般に審査におけるより、3人の審判官による丁寧、ユーザーフレンドリーな審理が行われることから、日本における審判制度は、出願人にとっては、審査に続く「希望のある第二の戦場」と言える。

 但し、審判請求には審査段階と同様の費用が発生することから、大企業は余り審判請求を行わず、審査段階での最終権利化を希望することが多い。そこで利用されるのが分割出願制度である(日本特許法第44条)。なお、米国の場合、分割出願は「限定要求」に対する解決手段として使用されているが、日本の場合には、より自由な制度と言える。

 「分割出願」の概念そのものは各国共に同様であり、要は「原出願の記載された発明を抜き出して新たな出願で権利化を図る」というものである。分割出願のメリットは、拒絶された場合(「最終拒絶」・「拒絶査定」を含む)に、争いたい発明事項に関しては原出願に残して意見書・補正書により反論し、争点とは切り離して別に権利化したい事項に関しては分割出願により別出願とする、という体制が作れる点にある。

 「分割出願を成功させる」ことは、「遡及効を得る」ことである(特許法第44条第3項)。

即ち、分割が適式に行われた場合には、「分割出願は原出願の時に行われた」ものとして、審査上、取り扱われる。不適式な分割でこの遡及効が得られない場合には、分割の現実の出願日の出願となり、原出願日の利益を享受できない。従って、ポイントは、いかに適式な分割と認めてもらうか、に係る。

 この点に関しては、日本特許庁が発行する「特許審査基準」に詳細な規定がある。要約すると、ポイントは「分割出願の新たな請求項記載事項、必要に応じてなされた記載変更事項が、原出願の範囲内であることを明確に主張、立証する」ことに尽きる。これは本来、「分割は補正の一態様である」という考え方から派生している。当然のことながら、原出願の開示範囲を超えて分割出願を行うことは、新規事項追加補正と同様に特許制度の趣旨に反する。

 日本特許法の手続としては、分割は「補正のできる時又は時期に行う」ことが原則であるが(特許法第44条)、改正によりこれ以外の時期でも分割可能である。問題は提出書類であるが、ポイントは分割出願明細書の作り方と、審査基準で提出が義務付けられている「上申書」の作成の仕方である。

 結論からいえば、分割明細書には、分割事項のみを記載し、分割事項に伴う補正事項に関しては、別途補正書で提出するのが適当と思われる。補正事項も補正書によらず分割明細書に記載する方法もあるが、分割事項及び補正事項には常に「新規事項追加」の規制が加わることから、分割に基づく補正事項が新規事項と認定された場合には、分割の要件の適否判断への影響が及び、場合によっては分割の要件が認められず、遡及効が得られないことにもなりかねない。従って、このようなやり化を推奨する。

 また、「多世代分割」も可能である。「多世代分割」とは分割出願をさらに複数回に亘り分割するものであるが、審査基準には、「ある出願を分割し、さらに分割した場合、2世代に亘る分割が成立」する旨の規定がある。この場合、原出願と第一世代分割出願との間、第二世代と第三世代との間で分割の要件が具備されている場合には、第三世代分割出願は原出願の出願日まで遡及する旨記載されている。

 分割戦略は自社の技術を多数の特許で守るための「特許のポートフォリオ」形成のために、日本においては非常に有効である。そのためには、当然のことながら、戦略的に原出願の明細書記載事項を充実させ、競合他社の出願同行を確認しながら分割事項をあらかじめ抽出して準備しておくことが重要である。

以上

                                  

By Takaaki Kimura

Managing Partner and Patent Attorney with over thirty-five years of IP law experience.