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日本における特許侵害論での均等論について
-米国・欧州・中国との対比―

日本で均等論侵害は未だに権利者にとっては米国ほど身近な存在ではない. 均等論」は、古くは英国の判例法において法理論が形成され、その後、米国裁判所において様々な重要判決が出され、進化した法理論である、日本においては、長く否定されてきたが、2016年の最高裁判決により認められた侵害理論である。

日本で均等論侵害は未だに権利者にとっては米国ほど身近な存在ではない. 均等論」は、古くは英国の判例法において法理論が形成され、その後、米国裁判所において様々な重要判決が出され、進化した法理論である、日本においては、長く否定されてきたが、2016年の最高裁判決により認められた侵害理論である。日本においてはた特許法上の規定はない(日本特許法第70条、68条。

 均等論は米国では1950年代から裁判所において成立が容認されており、その後も、様々な事件において議論され、様々な観点が追加され成立が認められてきている。一方、日本の訴訟実務では均等論侵害が容認される場合は多くはない。現状、裁判所等からの正確なデータはないが、ある弁護士の情報におれば、「均等論を主張した場合、10件に1件程度認められる」との情報がある。従って、基本的に、日本で均等論侵害は未だに権利者にとっては米国ほど身近な存在ではない。

 私見であるが、日本において均等論の成立が困難な理由は、その成立要件にあるものと考えている。成立要件が厳しすぎるのである。このままでは、権利者保護にならず、かつ、侵害訴訟件数も低いままとなってしまうのではないか、と懸念している。

 この点を諸外国との対比で考察する。

2.各国における「均等成立要件」の対比。

(1)米国の場合、

・オールエレメントルール

・FWRテスト(機能・FUNCTION/方法・WAY/結果・RESULT

(2)日本の場合、

・相違点が非本質的な部分でないこと

・置換可能性(相違点に置換しても同一の作用効果を奏する)

・容易想到可能性(模倣品製造時点において置換を容易に想到できる)

・容易推考性(模倣品が出願時に容易に推考できた)

・意識的除外がないこと(模倣品が出願手続過程において意識的に除外された事情がない)

権利者にとっては、第一要件をクリアすることが非常に厳しい。第一要件の欠如で不成立となる場合が多い。権利者にとってはこれが最大の難所である。

(3)欧州:

・ドイツの連邦最高裁判所判決

Ⅰ:手段が変更さ:れていても客観的に同一効果を奏するか?

ⅱ:変更手段が同一効果を奏することを容易に想到できるか?

Ⅲ:解決手段の同等性(当業者が手段が変更されていても同等と評価できるか?)

★要件ⅲがクリア困難と言われている。結果的に、日本の均等論成立要件に類似している。

日本と同様に、均等論が容認される案件は少ないとの情報がある。

(4)中国

★均等論を主張した案件の半分は均等論が容認されている。

Ⅰ:機能・作用・手段・効果の同一性(米国の成立要件と同一)

ⅱ:容易想到性

日本よりも広く認められている。

4.コメント

 日本において均等論が侵害訴訟において容認されにくい原因は、上記のように、成立要件ⅰにあると考える。米国、中国の成立要件には存在しないのではないか、と思われる。均等論は、法律の条文により成立する侵害論ではなく、裁判における法適用の現場において認められるものであるから、成立の可否は裁判所の裁量による。

結果的に、均等論を認めるか、どの範囲で認めるか、は、経済社会において、特許権による独占をどの範囲で容認するか、という問題になる。

特許侵害訴訟はボーダーレスとなっており、当然のことながら、外国企業が日本企業を特許侵害で訴える事態がある。均等論の議論に関しても、裁判所における運用、特許侵害理論の国際的調和、かつてWIPOにおいて議論された「国際的ハーモナイゼーション」が必要ではないか、と思われる。

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By Takaaki Kimura

Managing Partner and Patent Attorney with over thirty-five years of IP law experience.