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日本の実用新案制度の紹介(第2回)

前回の投稿で日本において「実用新案制度を利用することの有用性」に触れた。さらに、実用新案制度の有用性について述べる。日本において中小企業が「技術的アイデア」を保護しようとした場合には、実用新案制度は強い味方である。

前回の投稿で日本において「実用新案制度を利用することの有用性」に触れた。さらに、実用新案制度の有用性について述べる。日本において中小企業が「技術的アイデア」を保護しようとした場合には、実用新案制度は強い味方である。

日本の実用新案制度の特徴は「無審査制度」にある。出願人を実用新案制度により守るためには、この「無審査制度」の意味、有利な点、欠点に習熟する必要がある。

日本では平成5年から「審査制度」から「無審査制度」に移行している。この改正理由は、当時、特許出願の審査が遅延し、産業界から権利化の遅れに対する批判があったことから、実用新案に関しては無審査制度に転換する、という大胆な改正を行ったものである。私見であるが、この法改正は大変に優れたものであり、日本の中小企業にとっては大変に有利な状況が形成されたと考えている。

なお、日本での実用新案制度の利用率は、産業界全体としては高くなく(年間ほぼ1万件以下)、大企業は実用新案制度にはほとんど関心はない。従って、大企業を顧客とする日本の弁理士は、実用新案制度を利用した経験のないことも多い。かつて弁理士間の会合である著名な弁理士が「実用新案制度は利用率が低いのでいずれなくなってしまうのではないか」とSいう発言があり、実用新案制度を多々利用してきた私としてはやや驚いた記憶がある。

また、実用新案登録を行ったことのある弁理士でも、「無審査制度であるので権利価値は完全ではなく余り期待しないほうがよい」というコメントを出願人にする弁理士もいると聞く。このように日本の弁理士の間ではあまり評価が高くない実用新案制度ではあるが、果たして本当にそうであろうか。

先ずは、何にしても「欠点は長所の裏返し」である。

実用新案制度の最大の問題点である「無審査制度」はそのまま最大の有利な点になりうるのである。要は、実用新案制度の利用の仕方にコツがあるのである。

実用新案制度の長所は、早期の権利化(出願から約3か月で登録)、登録までの費用が安い(特許の場合の約半分以下)、簡易な技術的アイデアを迅速、確実に権利化できるという点にある。

中小企業の知知的財産は、簡易な技術の改良であることが圧倒的に多い。

簡易な技術改良であっても、法律上は特許出願での権利化を目指すこともできるが、大企業の非常に高度な技術に慣れ親しんだ審査官が、中小企業の簡単な技術アイデアを審査することになる。

いずれの国でも同様であるが、特許の審査理念は「減点方式」であり、「残念ながら拒絶理由を発見できない発明を特許にする」ものである。従って、簡易な技術アイデアを審査する審査官の心理としては、「こんな構成の簡易な技術に特許しても良いのか否か」という、やや面倒な課題を抱えることになる。

即ち、大企業の発明の場合であれば、圧倒程に技術的構成が複雑で、十分に審査対象として成立しているなアイデアに対し、思い切り新規性、進歩性の審査ができる。しかしながら、実用新案の場合には審査対象そのものが、新たな創作として脆弱な場合もある。

このような場合、審査官としては審査対象に対して非常に懐疑的にならざるをえない。従って、特に、進歩性判断に関してはより厳しい目が注がれ、出願人としては圧倒的に不利な結果になりかねない。資力に乏しい中小企業が資金をつぎ込んで審判段階まで争った場合でも最終的に特許にならない、という悲劇が起きることとなる。

このような事態を避けるために、当所では出願前の特許調査において、「新規性はあるが進歩性は疑問な簡易なアイデア」に関しては実用新案登録を強くお勧めしている。

 日本で、中小企業が実用新案制度を有利に利用するための条件は以下である。

ⅰ:出願前の特許調査を必ず行い、新規性、進歩性のレベルを確認すること。

ⅱ:技術評価制度で「評価2」(新規性はあるが進歩性は疑問)を目標とすること。

ⅲ:「実用新案登録済み」の標記を宣伝広告に使用すること。

上記条件により、実質的に中小企業は自己のマーケットを守ることができる。次回は、その理由について詳しくお話しする。

以上

By Takaaki Kimura

Managing Partner and Patent Attorney with over thirty-five years of IP law experience.