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特許ハーモナイゼーション」の議論の主旨について 特許ハーモナイゼーションの歴史・3

前回はPCTの理念と現状について、特に、国際調査制度を視点に述べた。以後、WIPOにおいて、かつて圧倒的熱量をもって長期間議論されながら、様々な事情から次第に収束せざるをえなかった「特許ハーモナイゼーション」 の議論についてお伝えする。

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特許ハーモナイゼーション」の議論の主旨について

前回はPCTの理念と現状について、特に、国際調査制度を視点に述べた。以後、WIPOにおいて、かつて圧倒的熱量をもって長期間議論されながら、様々な事情から次第に収束せざるをえなかった「特許ハーモナイゼーション」 の議論についてお伝えする。

「特許ハーモナイゼーション」とは、属地主義に基づく各国法制を前提とし、可能な限り、各国間の特許制度の調整を図って行こうとする議論である。従って、むりやりに各国法制を統一化しようとする動きではない。

「特許ハーモナイゼーション」の議論の出発点は、あくまでも「同一発明が、ある国では特許になり他の国では特許にならない」という事態を回避し、発明者、権利者にとって利用しやすい特許制度を国際的に作って行こう」とする点にあり、基本的な理念は「ユーザーフレンドリー」であり、PCTの精神と共通である。

従って、「特許ハーモナイゼーション」の議論は、特許制度の世界的「統一化」(Unification)又は特許制度の世界的「標準化」(Standizaition)を目指すものではない。因みに、日本特許庁は「特許ハーモナイゼーション」の議論のことを「特許制度調和」と呼んでいる。

PCTとの相違点は、PCTが各国国内法制の相違には全く関与することなく、「国際段階」という概念を創出し、国内審査段階に入るまでの統一化された国際的手続のスキームを創設したに過ぎないのに対し、特許ハーモナイゼーションの議論は、さらに一歩進んで、国内法制の各国間の相違を調整しようとしている点にある。

即ち、PCTを利用して国際出願を行い、その後、各国国内段階に係属した場合でも、各国国内での審査は各国法により各国の特許庁の審査基準により行われることから、法律そのものは、現在、かなり共通化されてはいるが、なお法制度の相違はあり、かつ、当然のことながら実際の法律の運用は各国ごとに異なる。

その結果、「ある発明が、ある国では特許になったが他の国では特許にならなかった」という事態は、2021年現在なお発生している。「特許ハーモナイゼーション」の動きは、この事態をすこしでも克服していこうとするものである。そして、この点は、いまなお、日々、我々弁理士が努力し、かつ顧客への説明に時として苦労し、そして、発明者自身の利益に大きく関わってくる問題である。その意味で「特許ハーモナイゼーション」の議論は現在なお重要な意味を持っている。

WIPOにおける「特許ハーモナイゼーション」の高揚と衰退に関しては、単に、特許という一専門領域分野における議論の推移のみならず、近年、国際会議、国際的議論によく見られる先進国と途上国との間の相反する利益の議論への影響、両者間の政治的駆け引き、

世界の産業構造の問題点、国際会議における議論の進行の方法の是非、さらには国際機関そのものの性格等、様々な問題が、「特許ハーモナイゼーション」という非常に狭い分野の議論の中に表現されていたものである。

本来「特許ハーモナイゼーション」という議論は、日、米、欧の、いわゆる「3極」間で積極的に議論されていた。いずれも先進国であり、特許制度は工業先進国において必要とされるものである。先進国の数は途上国の数よりも圧倒的に少ない。また、先進国の中でも、工業化レベルは夫々に異なる。

このような国際的状況の中で、国際連合の専門機関であるWIPOが国際会議を開催する場合、加盟国全体(本年度現在  ヵ国)に招待状を出す。この場合、「特許ハーモナイゼーション」の会議には、途上国の多くは、直接に自国の利益に直結した議論ではないことから、会議に出席しなかったが、「実体特許法条約」(SPLT)の議論が開始されると、こぞって会議に出席するようになった。

その理由は「特許に関し、先進国のみの間で勝手にハイレベルなことを要求する条約が作られてしまうと、自国の特許法の改正も必要になり、また、海外先進国により自国での特許取得が容易になり、外国特許が自国で多数成立することにより、自国産業の発達を阻害することになるのではないか」という懸念に基づくものである。

このような懸念に、さらに政治的な要素も大きく影響し、次第に、途上国間で 相互に緊密に連携をとり、WIPOの会議場において、「『特許ハーモナイゼーション』の議論そのものに反対する」という動きになって表れた。即ち、途上国の代表は、「『特許ハーモナイゼーション』の議論を遅らせる又は阻止するために会議に出席する」という事態に至った。

ここに「特許ハーモナイゼーション」の議論の悲劇性がある。即ち、「特許」という非常に専門性の高い分野の会議で、出席者の大半は各国特許庁の審査官、弁理士、弁護士という特許実務家による会議の中に、突然、国際政治力学に基づく先進国と途上国の間の「南北問題」の議論が介入したものである。途上国の出席者のほとんどは、特許実務家ではなく政治的な駆け引きに長けた外交官であった。

当然のことながら、私を含む出席者の大半はこの経過に非常に驚き、かつ、国際政治状況、先進国と途上国の産業構造の相違を改めて認識し、そのような国際的現実のなかで「特許制度はいかにあるべきか」を考えざるを得ない状況に至った。

以下、特許ハーモナイゼーションの歴史をWIPOでの議論を中心にたどってみる。

以上

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By Takaaki Kimura

Managing Partner and Patent Attorney with over thirty-five years of IP law experience.