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特許ハーモナイゼーションについての話題・2 (パリ条約:Paris Convention)

歴史的に見て、「特許ハーモ」の萌芽は「パリ条約」である。この条約は20世紀初頭に成立し、その後、改正会議を何度も重ねて現在の姿に至っている歴史的な条約であり、現在もなお知財の国際的げ保護の基礎を形成している偉大な条約である。

歴史的に見て、「特許ハーモ」の萌芽は「パリ条約」である。この条約は20世紀初頭に成立し、その後、改正会議を何度も重ねて現在の姿に至っている歴史的な条約であり、現在もなお知財の国際的げ保護の基礎を形成している偉大な条約である。 

これは個人的感想ではあるが、我々、知財実務家の間では、顧客や実務家同士の打合せの中で「パリ条約」という語が出てくると、一瞬、荘厳な雰囲気が漂うかのように感じられるほどの歴史的存在である。私にとってみれば「パリ条約」とはそのような存在である。 

パリ条約は、いわゆる「特許ハーモナイーゼーション(特許制度調和)」を目的とした条約ではないが、19世紀において、各国(当時の先進国等)における、産業革命等に基づく技術進歩、外国間貿易の増大等に鑑み、それまで各国任せであった知財保護制度に関する国際ルールを打ち立てたものである。 

これはそれまでに誰もやらなかったことであり、非常に大きな役割、意義を持ち、国際的知財保護に大きく貢献した条約であり、当時の法学者、政府側実務家等の法律議論により成立した、法理念的にも非常にしっかりとした内容の条約である。

パリ条約は「同盟条約」であり、加盟国間相互の結合性は非常に密である。従って、パリ条約加盟国は、パリ条約の規定に基づき、その内容を自国で履行する義務を相互に負っている。 

パリ条約は全30条の規定から成る。この内、産業財産権保護に関する規定は1条~11条までであり、簡潔な条約法ではあるが、非常に中身が濃い内容となっている。 

パリ条約には最重要な原則が3つある。即ち、①「内国民待遇」(第2条)、②「優先権制度」(第4条)、③「(各国)特許独立の原則」(第4条―2)である。

「内国民待遇」とは、産業財産権の国際的な保護に関しては、「外国人がある同盟国に保護を求めた際には、各国共に、その外国人に対して自国民と同一の保護を与え合うようにしよう」という義務を各国に課していた規定である。「特許独立の原則」は、特許分野において、「内国民待遇」の原則を、さらに強調して規定したものであり、4条―2は2条の関連規定とも言える。この「(各国)特許独立の原則」の理念は、日本最高裁における1997年の「BBS事件」判決(真正商品並行輸入に関する事件)においても引用されている。 

パリ条約第2条のみで「特許を含む産業財産権の保護は基本的に完遂される」といえるほどの素晴らしい規定である。少なくとも、この規定により、放置すれば外国人に優先して自国民のみを保護しようとする各国の「自国民優先保護の姿勢」は正され、産業財産権保護に関する外国人の権利は保護され、外国人及びその国の国民の利益は国際的に均等な立場を保証される。これはあくまでも属地主義を前提にした理念である。 

従って、この原則に従う限り、各国の言語で、各国の法律に従って手続して保護を求める場合には、その国の国民との差別はない。 

しかしながら、この「内国民待遇の原則」に従ったとしても、やはり外国人は、その国の言語を使用して、かつその国の法制度に合わせなければならず、このような「言語障壁」及び「法的情報障壁」のある外国人には、なお、実質的には不利である。 

即ち、各国はその国の言語で特許審査を行い、その国言語で権利設定を行うことから、自国言語で出願した特許明細書を権利化国の言語に翻訳する必要がある。また、権利化希望国への出願にあたっては、当該国の特許庁と当該国の言語により諸手続きを、その国の、場合によっては自国とは異なる法律、実務に基づき出願手続、審査手続を行い、権利化しなければならない。権利化国の現地の代理人(弁理士、弁護士)を依頼するとしても、やはり権利化国の国民との間では権利取得にはハンディキャップがある。 

そこで、この外国人の不利益を緩和するために「優先権制度」を設けた。 

即ち、自国で出願をした場合には、その出願日から1年間を「優先期間」とし、権利化国において権利化国等の他人が同一の発明に関し権利化手続を行った場合であって、自国出願日を外国において主張できる、という制度である。

ということは、その間の他人による出願の割り込みを排除でき、先顔としての地位を確保できる、ように構成されている。なお、この背景には、産業財産権の取得は世界的に「早い者勝ち」という思想がある。 

この制度によれば、翻訳の時間、及び外国法制情報を収集し、適合する手続を、必要に応じて現地代理人(弁理士、弁護士)と共に準備する時間を確保できる。 

しかしながら、パリ条約は「属地主義」を前提として「各国での権利化のためには各国出願が必要」とする「各国別出願」の原則を貫いていることから(上記パリ条約2条)、多数の外国で権利化を希望する場合には、夫々の国へ個別に、権利化国数の出願をする必要がある。  

その結果、上記優先権制度を利用したとしても、権利化国毎に、その国の法律に従った出願書類を作成し、その国の特許庁に提出することが出願人にとっては、やはり大きな負担であった。 

また、特に、各国は自国の言語で審査し、権利設定することから、出願書類(特に、特許明細書)のその国の言語の翻訳文を提出する必要がある。この翻訳費用が嵩み、外国出願早期に所定の費用が発生することが出願人の負担となっていた。 

これを解決したのがPCT(特許協力条約)である。次に、PCTの長所と限界を論ずる。                                  

以上  

By Takaaki Kimura

Managing Partner and Patent Attorney with over thirty-five years of IP law experience.